嘔吐物気道閉塞患者喘息誤診ネオフィリン不適切投与

呼吸困難の原因を誤診した気管支拡張剤使用の怖さ


嘔吐物気道閉塞患者喘息誤診ネオフィリン不適切投与ショック死事件−医師側敗訴
福岡地裁 平成5年11月25日判決、判例タイムズ857号214頁


嘔吐物気道閉塞(おうとぶつきどうへいそく)、喘息発作(ぜんそくほっさ)、ネオフィリン(ねおふぃりん)


 嘔吐物が気道を閉塞して呼吸困難に陥った患者に、喘息発作を疑い気管支拡張を目的としてネオフィリンを投与したことは適切でなく、その使用方法も、看護婦に注意をしなかったために、患者がばたばたするのを押さえ、急速に静脈に注入するという不適切な方法であったとして、医師の過失を認めた事例である。


「ネオフィリン注入に関する過失について
原告が予備的に主張するネオフィリンを注射したことによって、その死期を早めたという点で被告に過失が認められるかを検討する。
(一)ネオフィリン注射については、それが実施されたこと自体、気道確保等の措置に至るのを遅らせた行為であったという点で、前記2の誤った判断と相まって、過失があったということもできる。
(二)さらに、ネオフィリンが急速に静脈内に注射されると、嘔吐、痙攣等の副作用のほか、ショック症状が現れることもあり、その投与による死亡例もあることは前述したとおりである。

ところで、患者Aは、嘔吐物が気道を閉塞し、呼吸困難に陥っていたのであるから、喘息の際、気管支拡張を目的としたネオフィリンの投与は適切でなかったうえに、患者Aは呼吸困難の状態にあって、心臓が弱っていたものと考えられるから、場合によっては右のとおり危険な結果を来すおそれのある薬剤の使用は避けるべきであったというほかはない。

さらに、前認定した本件における時間的経緯のほか、被告がネオフィリンの注射を指示した際、看護婦に特に注射を時間をかけてゆっくりするよう注意した事実はなく、しかも、ばたばたするのを押さえた状態で注射が実施されたこと、実際、注射直後に患者Aの容態が急変し、ショック状態と認めうるような痙攣の後、口唇チアノーゼ、心停止に至っていることからすれば、ネオフィリンは急速に注射された疑いが強く、その使用方法も不適切であったことが明らかである。
以上のように、危険性のある薬剤の投与を、十分な指示を行わないまま実施させた点についても、被告に過失があったといわなければならない。」